第1章 発音(pronunciation「プロナンシエイション」)の重要性

「外国語を正しく学ぶための重要な前提となるのは、正しい発音の知識である。

 文法上での誤りをとんでもないミスと見なす人々が外国人を仰天させるようなひどい発音で話すのに出会うのは、興味をひく事実としかいいようがない。しかもその際に、外国人は文法上のミスのある文の方を、ひどい発音で話された文よりもむしろ理解できるということをわきまえておく必要がある。」(J・トマン『どのように外国語を学ぶべきか』) 「学習の最初の段階では、正しい発音を学ぶか、よくない発音を学ぶかには努力にそれほどの差はない。しかし、後になってよくない発音を矯正するのは、困難というより不可能に近い。語学の学習では一つ一つ間違いを正していくというのがその基本的態度であるが、発音だけは例外である。」(千野栄一『外国語上達法』)


 英語をゼロから学ぶ際に、絶対に必要不可欠なものは辞書です。メインは英和辞典(サブは和英辞典と国語辞典)ですが、「辞書と友達にならなければ英語は上達しない」と言えるでしょう。辞書が使いこなせなければ自習することもできませんし、英語ができる人ほど、しょっ中、辞書を引いているものです。
 ところが、辞書を使うためには「発音記号」の読み方を知らなければなりません。発音がカタカナで書いてあるような中学生向けの辞書は、学び始めにおいては有効ですが、学習が進めば、当然、高校生以上用の5~6万語以上収録された中辞典を使う必要が出て来ます。そこでは当然のごとく発音記号が出て来ますので、発音記号をマスターすることは絶対的な必要条件であると考えましょう(読めない単語を大量に覚えることは不可能です)。もちろん、発音の知識が多少いい加減でも勉強をどんどん進めていくことはできますし、大学受験でも特に支障が無かったりすることもしばしばです。ところが、実際に使おうとする時、発音の基礎からもう一度やり直しをせざるを得なくなるので、これほど時間と労力がムダになる話はありません。英語学習の一番はじめに「発音」というものを強く意識する必要があるのはこのためです。
 しかしながら、発音に対して過剰反応する必要は一切ありません。ネイティブと同じ発音を目指すことは不可能であり、意味も無いと知るべきです。実際、我が身を振り返ってみて、「自分の日本語の発音をカンペキだ」と感じている人がいるでしょうか。発音の良し悪しなど意識していない人がほとんどでしょう。ルール通りに特徴を押さえて発音していれば、「日本なまりの英語」で十分なのです。世界中で、インド人は「インドなまりの英語」を話していますし、フィリピン人は「フィリピンなまりの英語」を話しています。英語ネイティブ達は彼らの「英語」を理解して、普通にコミュニケーションを取っています。「発音上の特徴やルールを外れてはいけないが、それ以外はどうでもいい(なまっていてもいい)」というのが発音の鉄則です。


第2章 発音記号(phonetic signs「フォネティック・サインズ」)の読み方

(1)母音(vowls「ヴァウアルズ」)

 母音とは日本語で言えば「ア・イ・ウ・エ・オ」に相当するものです。子音とはカ行(k音)・サ行(s音)・タ行(t音)・ナ行(n音)・ハ行(h音)・マ行(m音)・ヤ行(y音)・ラ行(r音)・ワ行(w音)に相当するものです。例えば、アクセント(強く発音すること)は必ず母音に置かれ、子音に来ることはありません。
英語の母音の中には日本語でそのまま発音できるものと、日本語に無いものとがあります。特に後者は自然には発音できないということですから、意識的な努力が必要になってくるということです。まず、日本語に無い母音の発音上の特徴をしっかり押さえましょう。


①[æ]「ェア」=「ア」と「エ」の中間の音で、「ア」の口の形であごを下げて「エ」と発音します。日本語に無い発音ですから、意識しないと発音できません。bad[bæd]「バッド(悪い)」とbed[bed]「ベッド(ベッド)」の2つを発音して比較してみましょう。この[æ]はアメリカ人が多く使う音で、イギリス人にとっては[a]の音でいいと一般的に言われている音です。だから、can'tはアメリカ人は[kænt]「キャント」ですが、イギリス人は[ka:nt「カーント」と発音します。
例:animal[æniml]「アニムル(動物)」、apple[æpl]「アプル(リンゴ)」、bat[bæt]「バット(野球のバット、こうもり)」、cat[kæt]「キャット(ネコ)」

②[ə]「ァ」=「あいまいな母音」で、この音の上にはアクセントは来ません。2番目の音節(音のかたまり)にアクセントを置いて、弱く短く「ア」と発音するのがポイントです。
例:about[əbaut]「ァバウト(約~、~について)」、alone[əloun]「ァロゥン(1人で)」、America[əmerik]「ァメリカ(アメリカ)」、capacity[kəpæsti]「ヵパサティ(収容能力)」

③[ə:r]=口を少し開けて、「アー」と「オー」の中間のようなこもった音を出します。口を少し開けて、舌先を後ろに丸めるようにして「アー」と発音してみましょう。この発音ができればネイティブに一歩近づくと言われます。
例:bird[bə:rd]「バード(鳥)」、girl[gə:rl]「ガール(少女)」、word[wə:rd]「ワード(単語)」、world[wə:rld]「ワールド(世界)」

④[a][ɔ]=アメリカでは[a]「ア」(あくびをする時のように、日本語の「ア」よりも口を大きく開けます)、イギリスで [ɔ]「オ」(唇を少し丸めて「オ」と言います)の音。例えば、hotがイギリスでは[hɔt]「ホット」、アメリカでは[hat]「ハット」となるわけで、日本人にはイギリス英語の方がなじみやすく、アメリカ英語の方がカッコよく聞こえるというのはありますね。
 [ɔː]「オ」を伸ばせば長母音[:]「オー」となりますが、二重母音[ou]「オゥ」と混同しないように気をつけましょう。例えば、bought[bɔːt]「ボート(buyの過去形・過去分詞形)」とboat[bout]「ボゥト(ボート)」、hall[hɔːl]「ホール(玄関)」とhole[houl]「ホゥル(穴)」、law[lɔː]「ロー(法律)」とlow[lou]「ロゥ(低い)」の違いです。
例:body[ba(ɔ)di]「バディ/ボディ(体)」、doctor[da(ɔ)ktr]「ダクター/ドクター(医者)」、honest[a(ɔ)nisti]「アニスティ/オニスティ(正直)」

⑤[a:][a:r]「アー」=[a:]は口を大きく開けて「アー」と言い、[a:r]は「アー」と言いながら、舌先を少し丸める感じになります。[:r]は口を少し開いて舌先を丸め、唇と舌に力を入れながら「アー」と発音し、[a:r]は口を大きく開けて「アー」と言いながら、舌先を少し巻いて発音しますので、hurt[h:rt]「ハート(傷つける)」とheart[ha:rt]「ハート(心)」の2つを、実際に発音して比較してみましょう。
例:almond[a:mnd]「アーモンド(アーモンド)」、art[a:rt]「アート(芸術)」、dark[da:rk]「ダーク(暗い)」

⑥[ʌ]「ア」=日本語の「アッ」はこれです。口を余り開けないで、短く吐き出すように「ア」と言います。「アッ、そうだ!」という時の「アッ」の感じですね。「アッ」と短くつまったように言うと[]の発音で、あくびをする時のように大きく口を開けて「ア」言うと[a]の発音になりますので、luck[lʌk]「ラック(運)」とlock[lak]「ラック(カギをかける)」を発音して比較してみましょう。
例:come[kʌm]「カム(来る)」、cup[kʌp]「カップ(コップ)」、sun[sʌn]「サン(太陽)」

 ところで、日本語化している発音にも注意しておきましょう。例えばfromは「フロム」ではなくて[frʌm]「フラム」、frontは「フロント」ではなくて[frʌnt]「フラント」です。ovenは「オーブン」ではなくて[ʌvn]「アブン」であり、いわゆる「電子レンジ」はelectric oven[ilektrik ʌvn]「イレクトリック・アブン」、あるいはmicrowave oven[maikrweiv ʌvn]「マイクロウェイブ・アブン」と表現されます。また、野球のグローブはgloveですが、発音は「グローブ」ではなくて、[glʌv]「グラブ」です。

⑦[i]「イ」=唇を左右に引いた「エ」の口の形で、「イ」と短く歯切れよく発音しましょう。ちなみにimageは「イメージ」ではなくて、[imid]「イミッジ(印象)」です。
例:big[big]「ビッグ(大きい)」、hit[hit]「ヒット(打つ)」、win[win]「ウィン(勝つ)」

⑧[i:]「イー」=日本語の「イー」よりも唇を左右に思いっきり引いて、「イー」と強く発音しましょう。短母音の[i]を単に長くしたものではなく、写真を撮る時の「Cheeze!(チーズ!)」といった感じです。ちなみにteamは「チーム」ではなくて、[ti:m]「ティーム(チーム)」です。
例:eat[i:t]「イート(食べる)」、feel[fi:l]「フィール(感じる)」、see[si:]「スィー(見る)」

⑨[u]「ウ」=日本語の「ウ」ですが、唇を丸めて口をとがらせるつもりで発音しましょう。そのまま伸ばせば[u:]「ウー」となります。さらに「ユー」と伸ばしながら唇を丸め、強く「ウ」の音を出すと[ju:]「ユー」になります。例えば、スタジオはstudioですが、発音は「スタジオ」ではなく、[stju:diou]「ステューディオウ」となります。
例:book[buk]「ブック(本)」、cook[kuk]「クック(料理する)」、foot[fut]「フット(足)」、 good[gud]「グッド(良い)」、pool[pu:l]「プール(プール)」

⑩[e]「エ」=日本語の「エ」ですが、つまったような感じではっきり「エッ」と発音するとよいでしょう。
例: bed[bed]「ベッド(ベッド)」、elevator[elәvaitr]「エレァヴェイタァ(エレベーター)」、red[red]「レッド(赤い)」

 こうして見ると、母音のポイントは「ア(オ)音」にあることが分かりますね。日本語に近いイ音・ウ音・エ音も、その特徴を押さえるとさらに英語らしくなります。記号的にもアルファベットでないものが出てくるのは「ア(オ)音」ですから、これらをしっかり押さえておけばよいということになります。




(2)二重母音(diphthongs「ディフソングス」)

 二重母音とは2つの母音が重なるように続く母音のことです。基本的に先の母音の方に重点が置かれ、後の母音は付け足しのように発音されます。

①[ai]「アイ」=日本語の「ア」よりも口を大きく開けて強く「ア」と言い、「ィ」を弱く添えて「アィ」と発音します。ちなみに「ウイルス」はvirusですが、発音は「ウイルス」ではなく、[vairs]「ヴァイアラス」です。
例:ice[ais]「アィス(氷)」、island[ailnd]「アィランド(島)」、kite[kait]「カィト(空に上げるたこ)」

②[au]「アウ」=日本語の「ア」よりも口を大きく開けて強く「ア」と言い、軽く「ゥ」を添えて発音します。
例:around[raund]「ァラゥンド(~の周りに)」、ground[graund]「グラゥンド(地面)」、sound[saund]「サゥンド(音)」

③[ei]「エィ」=「エ」と強く言い、「ィ」を弱く添えるように発音します。例えば、nameの発音は「ネーム」ではなく、「ネィム」となります。
例:break[breik]「ブレィク(~を壊す)」、eight[eit]「エィト(8)」、same[seim]「セィム(同じ)」、train[trein]「トレィン(列車)」

④[i]「オィ」=「オ」を強く、「ィ」を弱く添えて発音します。
例:boy[bi]「ボィ(少年)」、soy[si]「ソィ(大豆)」、soil[sil]「ソィル(土)」

⑤[ou]「オゥ」=日本語の「オ」よりも唇を丸めて「オ」と強く言い、唇をすぼめながら「ゥ」を軽く添えて「オゥ」と発音します。例えば、bank loanは「バンク・ローン」ではなくて[bæŋk loun]「バンク・ロゥン(銀行ローン)」、goalは「ゴール」ではなくて[goul]「ゴゥル(ゴール)」です。例:old[ould]「オゥルド(古い)」、only[ounli]「オゥンリィ」、open[oupn]「オゥプン(~を開ける)」

⑥/iər/「イァ」=「イ」とはっきり発音し、なめらかに「 ァ」と軽く続けて、「イァ」と発音 します。「ァ」 を添える時に舌先を少し丸めると英語らしくなります。

例:beer/biə/「ビァ(ビール)」、dear/diər/「ディァ(親愛な)」、hear/hiər/「ヒァ(~が聞こえる)」

⑦/uər/「ウァ」=唇を突き出して強く「ウ」と言い、軽く「ァ」を添えて発音 します。「ァ」を添える時に舌先を少し丸めると英語らしくなります。

例:poor/puər/「プァ(貧しい)」、sure/∫uər/「シュァ(確信して)」、tour/tuər/「トゥァ(旅行)」

⑧/eər/「エァ」=つまったような感じで「エ」と強くはっきり言ってから、軽く「ァ」を添えて「エァ」と発音 します。「ァ」を添える時に舌先を少し丸めると英語らしくなります。

例:air/eər/「エァ(空気)」、share/∫eər/「シェァ(~を分ける)」、wear/weər/「ウェァ(~を着ている)」



(3)子音(consonants「コンソナンツ」)

 よく日本語では「は、ぱ、ば」は同じグループのように扱われますが(「清音は」「半濁音ぱ」「濁音ば」)、これらは英語では全く別な音として認識されます(h音、p音、b音)ので、注意しましょう。
 子音も母音と同じく日本語と同じ発音で通用するものと、日本語に無い発音のものと2種類ありますから、特に後者を意識的に発音する努力が必要です。

①[p]「プ」と[b]「ブ」=唇を閉じてから、勢いよく「プッ」と息を出すと[p]の発音になり、「ブッ」と声を出すと[b]の発音になります。stop[stap]のように[p]で語が終わる場合、[stapu]「スタップゥ」と最後に「ゥ」の音が加わらないように気をつける必要があります。
例:camp[kæmp]「キャムプ(キャンプ)」、map[mæp]「マップ(地図)」、club[klb]「クラブ(クラブ)」、web[web]「ウェブ(くもの巣)」

②[t]「トゥ」と[d]「ドゥ」=舌先を上歯ぐきに付けてから、急に離して「トゥ」と息を出すと[t]の発音になり、「ドゥ」と声を出すと[d]の発音になります。best[best]のように[t]で語が終わる場合、[besto]「ベストォ」と最後に「ォ」の音が加わらないように気をつける必要があります。
例:carrot[kært]「キャロット(にんじん)」、fit[fit]「フィット(~に合う)」、good[gud]「グッド(良い)」、stand[stænd]「スタンド(立つ)」

③[k]「ク」と[g]「グ」=舌の後ろの部分を上あごの奥に付けて息の流れを止めてから、舌を急に離して「クッ」と息を出すと[k]の発音となり、「グッ」と声を出すと[g]の発音になります。black[blæk]のように[k]で語が終わる場合、[blæku]「ブラックゥ」と最後に「ゥ」の音が加わらないように気をつける必要があります。
例:knock[nak]「ナック(叩く)」、stick[stik]「スティック(棒切れ)」、dig[dig]「ディッグ(~を掘る)」、flag[flæg]「フラッグ(籏)」

④[f]「フ」と[v]「ヴ」=日本語の「ハヒフヘホ」は[h]音であり、[f]音とは区別しなければなりません。上の歯で下唇を軽く押さえ、「フ」と息を出すと[f]の発音になり、「ヴ」と声を出すと[v]の発音になります。上の歯を下唇に当てないと[h]音になってしまいます。
例:fact[fækt]「ファクト(事実)」、safe[seif]「セイフ(安全な)」、victory[victri]「ヴィクトリィ(勝利)」、save[seiv]「セイヴ(~を救う)」

⑤[θ]「ス」と[ð]「ズ」=日本語の「サシスセソ」は[s]音であり、[θ]音とは区別しなければなりません。舌先を軽くかんで「ス」と息を出すと[θ]の発音となり、「ズ」と声を出すと[ð]の発音になります。例えば、「鉄の女」と称されたイギリス元首相サッチャーはSacherかな、それともSucherかなとスペルを想像したりしますが、実際にはThatcher[θæt]「サッチャー」で、舌をかまないと発音することはできません。
例:thank[θæŋk]「サンク(~に感謝する)」、bath[bæθ]「バス(入浴)」、they[ðei]「ゼイ(彼らは)」、smooth[smu:ð]「スムーズ(なめらかな)」

⑥[s]「ス」と[z]「ズ」=日本語の「サシスセソ」「ザジズゼゾ」と大体同じです。ちなみにnewsは「ニュース」ではなく[nju:z]「ニューズ(ニュース)」であり、cosmopolitanは「コスモポリタン」ではなくて[kzmplitn/kazmplitn]「コズモポリタン(カズマポラタン、世界市民)」となります。
例:guess[ges]「ゲス(~を推測する)」、miss[mis]「ミス(~をしそこなう)」、prize[praiz]「プライズ(賞)」、size[saiz]「サイズ(サイズ)」

⑦[ʃ]「シュ」と[ʒ]「ジュ」=日本語の「シャシィシュシェショ」「ジャジィジュジェジョ」と大体同じです。
例:sheep[ʃi:p]「シィープ(羊)」、cash[kæʃ]「キャッシュ(現金)」、visual[viʒuəl]「ヴィジュアル(視覚の)」、rouge[ru:ʒ]「ルージュ(口紅)」

⑧[t]「チュ」と[d]「ヂュ」=日本語の「チャチィチユチェチョ」「ヂャヂィヂュヂェヂョ」と大体同じです。2文字ですが、1つの音です。
例:chief[ti:f]「チィーフ(長)」、speech[spi:t]「スピーチィ(演説)」、just[dt]「ジャスト(ちょうど)」、stage[steid]「ステイジィ」

⑨[ts]「ツ」と[dz]「ヅ」=日本語の「ツ」「ヅ」と大体同じです。2文字ですが、1つの音です。
例:its[its]「イッツ(それの)」、states[steits]「ステイツ(国・州の複数形)」、beds[bedz]「ベッヅ(ベッドの複数形)」、kids[kidz]「キッヅ(子供の複数形)」

⑩[l]と[r]=[l]は舌を上の歯ぐきにつけ、[r]は舌をぐるっと巻き舌にしてのどの奥で発音するようにします(「巻き舌」のr。うなって相手を威嚇する「犬」のrとか、関西弁の「コラァァァ~!」のrとも言います)。発音上のコツは、[l]の発音は舌先をしっかり上の歯ぐきに付けること、[r]の発音は最初に「ウ」を言うつもりで、その口の形から巻き舌にすることです。light[lait]「ライト(光)」とright[rait]「(ウ)ライト」の2つを発音して比較してみましょう。
ちなみに英語にはほとんど読まないl(エル)の音がかなりあり、これを‘dark l’(ダーク・エル)と言います。例えば、peopleは辞書では[pi:pl]「ピープル(人々)」となっていますが、実際には英語国民は[pi:p:]「ピーポー」と発音しています。appleも「アップル(リンゴ)」ではなくて、[æp:]「アポー」と表記した方がよいでしょう。また、milkも発音記号は[milk]「ミルク(牛乳)」ですが、実際には[miuk]「ミゥク」に近く、hotelも[houtel]「ホゥテル(ホテル)」ですが、実際には[houteu]「ホゥテゥ」と聞こえます。
例:leg[leg]「レッグ(脚)」、nail[neil]「ネイル」、radio[reidiou]「(ウ)レイディオウ(ラジオ)」、bright[brait]「ブライト(明るい)」

⑪[m][n][ŋ]=[m]は唇を閉じて「ム」と鼻から声を出し、[n]は舌先を上の歯ぐきにつけて「ヌ」と鼻から声を出し、[ŋ]は「ング」と鼻から声を出します。
例:home[houm]「ホウム(家庭)」、brain[brain]「ブレイン(脳)」、bank[bæŋk]「バンク(銀行)」

⑫[h]=のどの奥から「ハッ」と息を出して発音します。
例:happi[hæpi]「ハッピィ」、heat[hi:t]「ヒート(暑さ)」

⑬[j]=日本語のヤ行の音と大体同じですが、日本語の「ヤ」を発音し始める時の口の形で、舌の中央を上あごに付け、舌に力を入れて「イ」と発音します。ear[[ir]「イァ(耳)」とyear[yir]「イァ(年)」の2つを発音して比較してみましょう。
例:yacht[yat]「ヤット(ヨット)」、yen[yen]「イェン(円)」

⑭[w]=日本語の「ワ行」の音ですが、唇を丸めて発音します。
例:way[wei]「ウェイ(方法)」、wait[weit]「ウェイト(待つ)」


第3章 アクセント(accent、強勢)

(1)単語のアクセント

 日本語は「高低アクセント」なので、ボソボソしゃべっても聞き取れますが、英語は「強弱アクセント」なので、日本語よりもはるかに強くはっきり発音しないと、理解ができません。実は「発音=音+アクセント」なのですが、東後勝明早稲田大学教育学部教授(元NHKラジオ英会話講師)は「場合によっては、アクセントは音以上に大切だ」として、次のようなエピソードを紹介しています。
 それによれば、アメリカの賑やかな食卓で、アクセントの位置を違えて「ポティトウ」と言う代わりに、「ポティトウ」と言うと全く通じなかったのが、今度はアクセントは正しく、子音を違えて「モメィトウ」とやってみると、驚いたことにすぐに分かったことが何度もあったということです。このエピソードから、英語は如何にアクセントに依存しているかが分かりますね。
 また、発音記号とアクセントの両方に言えることですが、英語の発音をするための筋肉の動かし方を習得する必要があります。日本人が英語をスムーズにしゃべれない理由は、いわゆる「英語脳」(「英語の論理」を使いこなせる)の欠如に加えて、舌・歯・口・喉などを動かす「英語筋肉」の欠如があると指摘されています。やはり、発音記号とアクセントは実際に何度も口にしてみて、筋トレする必要があるわけです。


(2)句動詞のアクセント

 句動詞の場合、動詞に組み合わされた前置詞の方にアクセントが置かれます。次の例で確認しておきましょう。 I want to shut up.(君には黙って欲しい。)
You should put that away somewhere.(それをどこかへしまっておいた方がいいよ。)
I couldn’t get my idea across to him.(どうしても彼に自分の考えを伝えることができなかった。)
 上の例だと、shut up, put that away, get my idea acrossとならないように注意する必要があります。


(3)文のアクセント

 英語の文章では、個々の単語が同じ強さで発音されるわけではありません。例えば、I went to the hall yesterday.という文章の場合、特に条件を付けなければ、強く発音される語はwent, hall, yesterdayの3語で、その次に強く発音されるのはIです。toとtheは弱く発音されます。一般的に冠詞、前置詞、人称代名詞、不定代名詞、関係代名詞、関係副詞、助動詞、接続詞といった品詞の発音に、強勢が置かれることは少ないと言えます。しかし、文アクセントは固定的なものではなく、対話は話し手と聞き手の心のやりとりなので、重要な単語は自然と強く発音するされるようになります。したがって、あまり気にすることはないとも言えますが、日本語の場合は個々の単語が均一の強さで発音される傾向があるので、英語を話す時には意識的に強弱をつけた方がよいでしょう。
 次の例で、文のアクセントについて確認しておきましょう。
I love you.(愛しているよ。)
I love you.(愛しているのは君なんだ。)
I love you.(君を愛しているのは他の人ではなく、僕なんだ。)


第3章 イントネーション(intonetion、声の抑揚)

(1)文尾の調子(tone「トォウン」)

①文尾が下降調=平叙文、命令文、感嘆文、疑問詞で始まる疑問文。ただし、疑問詞で始まる疑問文の文尾が上昇調になることもあり、例えば、What's this?というような場合、上昇調で言うことも少なくありません。
②文尾が上昇調=yesかnoの答えを求める疑問文、依頼・勧誘の文、断定的でない口調の平叙文、呼びかけの語の後。ただし、yesかnoの答えを求める疑問文の場合、純粋の疑問ではなく、確認する気持ちが強い時は文尾が下降調になります。また、英語では文尾に相手の名前を添えることが多く、親しみを込めて上昇調で言いますが、小言を言う前の呼びかけでは下降調になります。例えば、「ジョン、言いたいことがある」ときつい調子で言う場合には、I have a talk with you, John.(下降調)のようになるわけです。
③選択疑問文の場合=Which do you like better, tea(上昇調)or coffee(下降調)?
④付加疑問文の場合=質問の気持ちが強い時は文尾が上昇調になり、肯定の答えを期待している時は文尾が下降調になります。