社会力アップ講座

4 公民的分野

1、日本国憲法

日本国憲法の基本原理:国民主権・平和主義・基本的人権の尊重。憲法前文は、第1段で国民主権が人類普遍の原理であることを述べ、第2段と第3段で平和主義と平和的生存権、国際協調主義を述べ、最後に「この崇高な理想と目的を達成する」という誓いからなっています。また、第11・97条で基本的人権が「侵すことのできない永久の権利」であることを宣言し、第13条で個人が尊重されるべきこと、生命、自由、幸福追求に対する国民の権利は「公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」として、政治の諸活動が基本的人権を尊重すべきことを宣言しています。

「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるのであつて、その権威は国民に由来し、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基づくものである。」(日本国憲法前文第1段)
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」(日本国憲法前文第2段)
「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」(日本国憲法第11条)
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利に対しては、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする。」(日本国憲法第13条)


【大日本帝国憲法と日本国憲法の違い】

大日本帝国憲法 日本国憲法
形式 欽定憲法(君主が制定) 民定憲法(国民が制定)
基本原理 天皇主権 国民主権、平和主義、基本的人権の尊重
天皇 全ての統治権を掌握
天皇大権(統帥大権など)
日本国および国民の統合の象徴(象徴天皇制)、国事行為(形式的・儀礼的、内閣の助言と承認)
基本的人権 天皇より恩恵的に与えられた臣民の権利
自由権のみ、社会権なし
永久不可侵の権利
自由権、平等権、社会権、参政権、請求権(受益権)
国会 天皇の協賛機関 国権の最高機関、国の唯一の立法機関
内閣 天皇の輔弼機関
天皇に対して個別に責任
国会に対して連帯して責任を負う
裁判所 特別裁判所設置
違憲審査権なし
特別裁判所禁止
違憲審査権あり
地方自治 規定なし 規定あり
臣民・国民の義務 納税の義務、兵役の義務 納税の義務、子女に義務教育を承けさせる義務、勤労の義務


【新しい人権】
環境権 日照権など。
プライバシーの権利 →個人情報保護法。
知る権利 →情報公開法。
アクセス権 言論の自由を確保するため、一般大衆がマス=メディアを利用して自己の意見を表明する権利。反論権、意見広告掲載請求権。


2、三権分立

民主主義の理念:「人民の、人民による、人民のための政治」(リンカン)。
三権分立:立法・行政・司法。『法の精神』(モンテスキュー)。
議院内閣制:立法権と行政権の関係が密。イギリス、日本など。内閣の長(首相)を選出。内閣不信任決議権。国務大臣は国会議員(イギリスは全員、日本は過半数)。下院の優越。内閣は議会に対して責任。内閣に議会の解散権。
大統領制:三権分立を徹底。アメリなどカ。大統領の不信任決議権なし。下院は任期2年で民意を反映しやすいとする。大統領は大統領選挙によって国民の信任(形式的には大統領選挙人による間接選挙だが、実質的に直接選挙)。大統領に議会の解散権なし。大統領は議会に法案を提出できない。大統領は教書(一般教書・予算教書・特別教書など)によって協力要請。大統領に拒否権。大統領は任期4年で3選禁止。


【地方自治】
「地方自治は民主主義の学校である」(ブライス)。
地方自治では、都道府県・市町村区議会議員は選挙で住民の信任を得て選ばれ、首長も首長選挙で住民の信任を得て選ばれますので、「大統領制」型であると言えます。ところが、議会には首長に対して「不信任決議権」を持ち、首長も議会に対して「解散権」を持っていますので、「議院内閣制」型であると言えます。条例制定など独自の立法を行えますし、直接民主主義の制度もあります。また、東京都などは一昔前には中国・韓国の国家予算に匹敵する予算を組んでいたものです。まさに「地方自治」には民主主義のあらゆる要素が含まれていて、とてもおもしろいのです。


3、国会の仕組みと働き

国会:「国権の最高機関で、国の唯一の立法機関」(憲法41条)。
立法権の優位:内閣総理大臣や国務大臣が国会議員の中から選ばれたり、衆議院に内閣総理大臣の指名権や内閣不信任決議権があったり、内閣は国会に連帯して責任を負うなど、肥大化・強大化しやすい行政権に対して立法権が優位に立つような仕組み。


【国会の種類】

通常国会 毎年1回、1月召集、会期150日。
臨時国会 内閣、あるいはいずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求により招集。衆議院の任期満了に伴う総選挙、参議院の通常選挙後30日以内に召集。
特別国会 衆議院解散後の衆議院総選挙後30日以内に召集。内閣総理大臣の指名。


【国会の構成:二院制~衆議院と参議院】
衆議院 参議院
定員 465名。
小選挙区289名。比例代表(11ブロック)176名。
248名。
都道府県単位選挙区148名。全国単位比例代表100名。
任期 4年(解散あり)。 6年(3年ごとに半数改選)。
選挙制度 小選挙区比例代表並立制、重複立候補制。 小選挙区制+非拘束名簿式比例代表制。
被選挙権 25歳以上。 30歳以上。
特徴 衆議院の優越(法律案議決、予算の先議・議決、条約承認、内閣総理大臣指名→任命は天皇)。内閣不信任決議権。


委員会制:増大する国会の事務を効率化し、かつ慎重に行うために、衆参両議院にそれぞれ各種委員会が設けられ、これによって国会運営を進める仕組み。
国政調査権:衆参両議院が国政全般について調査できる権限。証人の出頭・証言、記録の提出などを要求できる。
両院協議会:国会の議決を必要とする議案や内閣総理大臣の指名について、両議院の意見が一致しない場合に、意見調整のために各議院で選挙された10名の議員により開かれる機関。
弾劾裁判所:両議院の議員によって組織され、適格性を欠くために罷免の訴追を受けた裁判官の弾劾・罷免を決定する。
憲法改正発議:総議員の3分の2以上で発議、国民投票の過半数で改正(硬性憲法)。


【国会議員の特権】
議員の不逮捕特権 国会議員は現行犯逮捕を除いて、国会の会期中には逮捕されません。また、会期前に逮捕された国会議員は、その議院の要求があれば、会期中に釈放されなければなりません。
発言・表決に対する不問 国会議員は、院内で行った演説・討論・表決について、議院外でその責任を問われることはない。国会での目に余るヤジはここからくるわけですね。
相当額の歳費 国会議員としてふさわしい額の歳費(給与)を受けることができます。なお、議員宿舎や議員会館の格安使用、各種交通機関の無料使用などといった待遇も受けています。


4、行政と内閣

内閣:国会に対して連帯して責任を負う。
行政権の肥大化:行政権の専門化・複雑化。
内閣総理大臣:国会議員の中から国会の議決で指名、天皇が任命。文民でなければならない。
国務大臣:内閣総理大臣が任命、過半数は国会議員、文民でなければならない。
内閣総辞職:
(1)衆議院が内閣不信任案を議決または信任決議案を否決した時(10日以内に衆議院を解散した時はこの限りではない)。
(2)衆議院総選挙後初めて国会の召集があった時。
(3)内閣総理大臣が欠けた時。
(4)内閣がその任にとどまることが適当でないと考えた場合にはいつでも総辞職し得る。
行政の民主化:情報公開制度。
オンブズマン制度:行政監察官。スウェーデンで始まりました。


【1府12省庁】

内閣府 首相が長で、経済・科学技術・男女共同参画・防災など重要政策を考える。
総務省 行政組織や選挙・公務員制度・消防・情報など、国の中心の仕事や郵政事業を担当する。
法務省 国が関係する裁判の処理や検察・司法制度・人権擁護・出入国管理などを担当する。
外務省 外交政策の企画・立案・実施をしたり、国際会議を担当する。
財務省 国の予算・決算の仕事や関税に関する企画・立案を担当する。
文部科学省 教育制度・スポーツ・文化・科学技術の開発振興を担当する。
厚生労働省 社会福祉・社会保障・医薬品・食品の安全管理、労働条件の改善などを担当する。
農林水産省 食料の安定供給の確保、農林水産業の振興を担当する。
経済産業省 産業の活性化・貿易の推進など、経済を活性化させる政策を担当する。
国土交通省 河川などの防災対策や国土開発、道路・空港などの交通システムの整備を担当する。
環境省 森林・湖沼などの自然環境の保護と公害の防止、野生動物の保護などを担当する。
国家公安委員会 犯罪捜査など市民生活を守る警察の管理・運営を行う。
防衛省 陸海空の3つの自衛隊の管理・運営を行う。


5、裁判所の仕組みと働き

司法権の独立:「すべて裁判官は、その良心に従い独立して職権を行い、憲法及び法律にのみ拘束される」(憲法76条)。特別裁判所の禁止。
違憲審査権:全ての国家行為(法律・命令・規則・処分)が憲法に適合しているかを審査する裁判所の権限。
最高裁判所:憲法の番人。長官(内閣の指名→天皇の任命)、長官以外の最高裁裁判官(14名、最高裁指名→内閣任命)、定年70歳、10年に1回の国民審査。
下級裁判所:高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所。
三審制:原則として、1つの事件について、3回まで裁判を受けることができる。
控訴:第一審の判決に不服として上訴すること。
上告:第二審の判決を不服として上訴すること。
裁判員制度:重大な刑事事件の裁判に一般市民から無作為に選ばれた裁判員(6人)が裁判官(3人)と共に審理に参加し、有罪・無罪や量刑などを決める制度。
再審制度:刑事裁判については、裁判所の判決により刑が確定した後でも、新たな証拠で事実誤認の疑いが生じた場合などには、裁判のやり直しを行うことができる。これは被告人に有利な再審のみ認められる。
罪刑法定主義:どんな行為が犯罪であり、どれだけの処罰を受けるかがあらかじめ定められていなければならないとする原則。近代刑法の到達点とされます。


【人権と特権】
少年犯罪の報道で加害者に関して「少年の人権保護のために」と言われる一方で、被害者の人権がないがしろにされているケースが見受けられます。「少年だから」という理由で保護されるのは「人権」ではなく、「特権」であり、「人権」は誰に対しても保護されなければならないものであるのに対し、「特権」の保護対象は時代や社会によって変化します。