数学力アップ講座

7、1次方程式と2次方程式

学校や受験で出される問題には当然、「答え」があります。しかし、実際には全ての方程式に「解」があるわけではありませんし、「解」があってもそれを導き出せるかどうかはまた別問題です。これを「存在問題」と言います。

例えば、ガウスはn次方程式は複素数の範囲内において、必ずn個の解(根)を有することを証明しています(ガウスの大定理、代数学の基本定理)。ちなみに1次方程式はごく簡単に解けますし、2次方程式も古代バビロニアの数学がすでに解けていて、それがローマに伝わって、アラビアの代数学でも解けていました。その次の3次方程式になると、解けるまでにずいぶんと長い時間を要してしまい、ようやくルネッサンス時代にイタリアの医者・数学者・哲学者・占星術師であったカルダノが初めて解いたのです。それに続いて間もなく、4次方程式もカルダノの高弟フェラーリによって解かれました。そこで数学者の関心は当然、5次方程式へと向かうわけですが、これはずっと解けずに何百年という歳月が流れますが、ノルウェーのアーベルによって、5次方程式は代数的に(係数に四則演算と根号を施して)解けないことが証明されたのです(アーベルの定理)。さらにフランスのガロアによって、5次以上の方程式は代数的に解けないことも分かりました(ガロアの定理)。すなわち、4次方程式までは「解の公式」が存在しますが、5次以上の方程式には「解の公式」が存在しません。これは答えは確かにあるのに、解くことができないというケースになるのです。

つまり、問題には答えがあり、解けるに決まっていると思い込んでいると、答えの無い問題、解けないかもしれない問題に直面すると、途方にくれてしまうということです。これが実社会における「存在問題」です。ある一流大学で「問題解決」の授業をしていた先生が、生徒から「先生、ずるいじゃん。他のクラスとうちのクラスで教える内容が違っていて、テストの時に不公平じゃん。」「先生さー、結局、答えは何なのよ?それを言ってくれれば覚えるからさー。一体、何が言いたいのか分からないんだよねー」と言われてあぜんとしたと言います。そもそも答えがあるかどうか分からない状況の中で、いかに対処していくかを考えていくのが「問題解決」の授業なのですから、「受験エリート」の弊害を見たようです。


等式:数量の間の関係を等号(=)を使って表した式のことです。等式の左側の式を左辺、右側の式を右辺と言い、両方合わせて両辺と言います。一方の辺の項の符号を変えて、他方の辺に移すことを移項と言います。
方程式:式の中の文字に特別な値を代入した時に限って成り立つような等式のことを言います。
方程式の解:方程式を成り立たせるような文字の値のことです。

1次方程式:式を整理してax=bの形となる方程式のことです。1次方程式の解き方は次の通りです。
①かっこがあればかっこを外し、係数に分数や小数があれば整数になるように直します。
②文字xを一方の辺に、数の項を他方の辺に移項します。
③両辺をそれぞれ整理して、ax=bの形にします。
④両辺をxの係数aで割ります。
1次方程式の応用問題の解き方:いわゆる文章題への対応です。
①何を求めるかをはっきりつかみ、求める数量またはそれに関係のある数量をxで表す。
②問題の中から等しい数量を見つけて、それをxの式で表し、等号で結んで方程式を作る。
③作った方程式を解いて解を求める。
④方程式の解が問題に適しているかどうかを調べて、答えを決める。

2次方程式:式を整理して、ax2+bx+c=0(a, b, cは定数、a≠0)の形になる方程式のことです。2次方程式の解き方は次の通りです。
①因数分解を使う。
例えば、左辺を因数分解して (x-m)(x-n)=0の形にできれば、x=m, nとなります。
②平方の形を使う。
例えば、(x-m)2=n(n>0)の形にできれば、x-m=± n よりx=m± n となります。
③2次方程式の解の公式を使う。
これは万能の公式とも言えるものですが、式によっては手間がかかるので、①や②で対応できなかった場合に使うものと心がけましょう。
2次方程式の解の公式:2次方程式ax2+bx+c=0の解はx= - b ± b 2 - 4 a c 2 a となります。特にxの係数が偶数である場合には、ax2+2b’x+c=0の解はx= - b ± b 2 - 4 a c a となり、xの係数が1の時(a=1)などには計算が圧倒的に速くなりますので、覚えておくと便利でしょう。
2次方程式の実数解の個数:2次方程式ax2+bx+c=0のb2-4acを判別式Dとすると、実数解の個数は次のようになります。
(1)D > 0 ⇔ 異なる2つの実数解を持ちます。
(2)D =0 ⇔ 1つの実数解(重解)を持ちます。
(3)D < 0 ⇔実数解を持ちません。
 ちなみに、ax2+2b’x+c=0の時には、判別式 D 4 も=b’2-acで考えます。

連立方程式の解法:変数の数だけ方程式があれば、それを解くことができます。例えば、x,yの2つ分からない数があるとしても、それらを満たす式が2つあれば、連立させて数を特定させることができるのです。x,y,zの3つなら、3つ式が立てば求められるわけです。このことは知っておくと便利です。求め方としては、次の2つの方法が代表的です。
(1)加減法:連立方程式の両辺を足したり、引いたりして、文字が1つになるように導いて解く方法です。
(2)代入法:連立方程式の中から消去したい文字について解き、残りの式に代入して解く方法です。

方程式を解く際の基本的知識:苦手にしやすい分野、知っておくと便利な知識として、例えば次のようなものがあります。
①距離・時間・速度~いわゆる「みはじ」「きはじ」「はじき」などと呼ばれるものです。
 道のり÷時間=速さ 道のり÷速さ=時間 速さ×時間=道のり
②割合~原価・定価・売値などの問題で、「○%増し」「○割引き」などと言われると、とたんに計算ができなくなる人が続出します。
 x円のy%増=x(1+ y 100 )円
 x円のy%減=x(1- y 100 )円
 x円のy割増=x(1+ y 10 )円
 x円のy%減=x(1- y 10 )円
③濃度~いわゆる「食塩水の濃度」問題です。食塩の重さと食塩水の重さの2つに分けて、それぞれの変化を追いかけていくのがコツです。ここでもたくさんの人がばたばた倒れていきます。
食塩水の濃度(%)= 食塩の重さ 食塩水の重さ ×100


【数学の伝統・遺産を相続することの大切さ】
戦前の日本のお話です。ある田舎に数学が大変得意な生徒がいましたが、家が貧しいため、働かざるを得なくて上の学校に行くことができず、数学の先生はとても残念がったと言います。2年後、恩師を訪ねてきたその生徒は、「この2年間、1人で数学の勉強を続けてきて、大変な発見をした!」と言ってきたそうです。先生が早速、その内容を確認してみると、何とそれは「2次方程式の解の公式」でありました。2年間、たった1人で数学を独学して、2次方程式の一般的解法を見つけ出したことは確かにすごいことですが、中学校で数学を学んでいれば、たった1時間の授業で説明されてしまうことでしょう。

数学を学んで少しも楽しくない人、苦痛で仕方がない人はたくさんいることでしょうが、人類史にその名を残す天才達が一生かかって見つけ出した概念や公式を、誰でも簡単な初等数学(算数)から始めて、普通に学んで吸収できるということは実は大変なことなのです。実際、微分や積分を学んだ高校生あたりがタイムマシンで500年前に行けば、ニュートンやライプニッツ級の「天才」として絶賛されることでしょう。xy座標を使って、関数をグラフに表わすだけで、デカルト級の「天才」となるかもしれません。ちなみに「教育の目的」には「人格の成長」「社会で生きていく力の養成」の他に「人類の文化・遺産の相続」といった面があるのですが、実はこの点で最も成功しているのが「数学」の分野なのです。